月: 2019年9月

スイスの山岳世界を満喫

フリーランスというのは、計画を立てるのが難しい。だいたい思った通りにことは運ばないようになっている。でも、忙しくなりそうな気配だけはよくわかる。8月中旬から、仕事やらお手伝いやら休暇やらが続いて、ずっと気忙しかった。ありがたいことに。

でも、休暇ではもちろん気忙しいことはなく、今回はスイス国内のホテルに1週間留まっていたので、出発や移動の時間を気にすることもなく、ゆっくりと過ごすことができた。目的地はオーバーヴァリス(高地ヴァリス)と呼ばれる地域で、日焼けして真っ黒になった木造家屋の集落が美しいところだ。何度か車で通り過ぎたことはあったけれど、じっくりと歩いたことがなく、いつか滞在してみたいとずっと思っていた。そんな願いを夫に漏らしたところ、「じゃあ、今年の秋はそこでハイキング休暇」ということになった。

天気予報は週後半から崩れ気味となっていたけれど、実際はほぼ好天続きで、初めの頃は標高3000メートル近くでも半袖でも十分なくらいの暑さ。30年くらい前に一度訪れたことのある、今ではユネスコ世界遺産にも登録されているアレッチ氷河にも行ってみた。晩夏ということもあって、氷河はなんだかやせ細って見えた。実際、スイスの氷河は恐ろしいスピードで消えつつある。素晴らしくも悲しい光景に、20年位前にモルジブのある島で見た灰色のサンゴ礁の姿を思い出した。

天気が崩れそうな日には、車で30分くらい離れた町にある温泉プールへ行くつもりで水着も用意していたけれど、結局、毎日ひたすら山を歩いた。滞在していた村自体がすでに標高約1400メートルなので、ロープウェイを使うとすぐに2000メートルくらいの高さになる。そうすると、もう少し南西寄りにそびえる、かの有名なマッターホルンの三角頭が見えてくるし、アレッチ氷河を眺め渡せる山頂からは、ベルン側にある、アイガー、メンヒ、ユングフラウの名山も見える。そんな山々を眺め、車の騒音も届かない静かな山道を歩きながら、時おり深呼吸をする。なんて贅沢なことだろう。

険しい山道を、何度も何度も息継ぎの休憩をしながら、汗を拭き拭き上って、木々の間から爽やかな渓流がふっと目の前に現れたときの嬉しさも例えようがない。道中にレストランがあると思って、水道水を入れたペットボトル1本しか持たずに朝ホテルを出、結局、ほとんど飲み食いせずに午後2時ごろまで歩き続けたことも何度か。それでも、日ごろ取らない朝食を取っていたせいか、それほど空腹を感じることもなく、歩いた。

本当にただただ歩いただけの休暇だったけれど、美しい山並みや高山地帯のカラフルな景色を堪能し、2人してひどく満足した休暇だった。1週間、スイスの山を歩くということはこんなにも心を満たしてくれるのか。我ながら、驚いた。来年は、ベルナーオーバーラントを歩く予定。今から楽しみ。

滞在最後の日にやっと表れてくれた美しい夕景にも満足