6月中旬から2週間、一足早い夏休みをクロアチアの海岸で過ごした。以前はスペイン領マヨルカ島で騒いでいたドイツの若者たちが移っていって休暇を過ごすようになったと数年前に聞いたところだ。でも、それと同時に、海がとても美しいとも聞き、年が明けるか明けないかというときから次の休暇の計画を立てだす夫に打診してみたところ、すんなりとOKが出た。西欧からマイカーで行く人も多く、飛行機だとチューリヒからたった1時間半なので、気楽に行ける場所でもある。
「よかったよ~」と人が言うものには、往々にしてがっかりさせられる。期待が大きいからだ。でも、ダルマチアの海や街に落胆することはなかった。海岸は砂利や岩が多く、水は本当にきれいに透き通っている。それに、内海だから比較的静かで泳ぎやすい。シーズン前だったこともあって、物価もずっと安く、人混みもまだ耐えられるくらいだった。本格的な夏が始まる前だからほとんど泳げないだろうと思っていたけれど、行ってみたらほとんど毎日30度を超える暑さ。水温も体が凍えるほどではなく、場所によってはチューリヒ湖より温かいようなビーチもあった。
私は石や木で造られた昔ながらの建物が大好きだ。ダルマチアにも石造りの古い建物がたくさんある。ドゥブロヴニクの旧市街、スプリットのディオクレティアヌス宮殿、ザダルの遺跡など、見ごたえのある場所のほか、ドライブの最中に見かける崩れかけた石塀や街の片隅に残る小屋なども見ていて飽きない。
だが、新しいきれいな建物や道路が多い中にも、戦争の傷跡はまだまだ残っている。ほんの数軒しかないような小さな村の住居の壁に弾痕を見たときは、さすがに「こんなところでまで戦いが……」とショックだった。私たちは「戦争を知らない世代」だけれど、ほんの25年ほど前の戦争が思ったより近くで起こっていたことをまざまざと見せつけられた感じだ。
車を降りて歩くと、山にも海岸にも松の木が多く、落ち葉が独特の香りを辺り一面に漂わせている。私にとっては「休暇の香り」だ。この辺りにしか見られない植物も多いよう。エーデルワイスに似た花も見かけた。エニシダもまだあちこちで花を咲かせていたけれど、あのいい香りはなかった。
土地のワインもおいしく、海を挟んだお隣イタリアのお国料理ピザも多くのレストランでおいしく食べられる。が……。唯一の難点は、どこのレストランもほぼ同じメニューしか提供していないこと。サラダもスパゲティも、魚料理も肉料理も、出す料理はどこも変わりがないのだ。もちろん、おいしいお店とイマイチというお店はあるけれど、チョイスの幅が極端に狭い。2週間で北はザダルから南はドゥブロヴニクまで移動したものの、どこへ行ってもメニューが同じで、最後の方はさて何を食べようかと困ってしまった。
ほんの20年前の戦争の記憶はまだ新しく、私の中にあった旧ユーゴスラビアの人々のイメージは、怒鳴るように話す、ちょっと乱暴な人たち、というものだったのだが、クロアチアの人々はみな、とても親切でにこやかで、正直驚いた。ハイシーズンになるとまたちょっと違うのかもしれないけれど、また行きたいと思わせてくれる国だ。