月: 2016年5月

9年間お世話になった車に、夫と2人で感謝を言ってお別れした。比較的小さい車だったのでかわいく、お別れは悲しかった。新しい車は少しだけ大きい。「慣らし」のために1泊でジュネーブ湖畔に広がるラヴォーへ。私は何度か訪れているけれど、夫にとっては初めての場所だ。ブドウの木はまだ小さく、緑も少なかったけれど、天気は最高。昼間は美しいアルプスが青い空に映え、夜は満月がジュネーブ湖を照らした。

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ブドウ畑の散策にもよさそうな日和だったけれど、上着を持たずに出たら意外に風が強く、2時間のドライブで渇いた喉をまずは潤そうと、湖沿いを散歩中に見つけたガーデンレストランに少し腰を下ろしたあと、すぐにホテルに引き返した。今度は上着を持って、電車でヴヴェイの町へ。ホテルが無料で電車に乗れるチケットをくれたのだ。ワインの産地としては、いいアイデア。ヴヴェイの街は以前、在住の日本人女性に案内してもらったことがあるので、少しだけ地理がわかる。湖沿いを歩いていったら「Street Food」の文字が目に飛び込んできた。路上にテーブルが並べられ、屋台がたくさん出ている。人出も多い。私たちはもう夕食を取ってしまったのでぶらぶらと歩き、雰囲気だけを楽しんできた。初めて見たとき、「これはフランス語圏のカルチャーかも」と印象に残った、湖に刺さる大きなフォークや岩の上に固定された椅子もちゃんとあった。

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翌日は、着いた日にホテルから歩いていこうと思って断念したリュトリの町へ。ここにも以前、来たことがある。旧市街がとても素敵だった。ワインケラーもあるので、地元のワインを買って帰りたかったけれど、時間が早すぎてまだ開いていない。散策だけでもと思っていたら、ここの湖沿いでは蚤の市が開かれていた。ちらちらと売られているものを眺めながら、暖かい朝日の中を散策。細い路地の中はまだ陽が当たっていないけれど、古い建物と石畳がとてもやさしい。いつかまたゆっくり来たい場所だ。

着いたときは、丘の上の方にある幹線道路から湖まで下りるのに、途中の小さい村の狭い路地やブドウ畑の細い遊歩道を通り抜けるのに、どこかにぶつかって新車に傷がつくのではと思いっきりヒヤヒヤしたけれど(買ったその日に傷をつけようものなら、運転しているのは夫でも、行き先を提案した私が責められるのは間違いない)、無事に小旅行を終えて帰ってきた。初めてのラヴォーには夫も満足。私も満足。

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あこがれ

遅まきながら『声に出して読みたい日本語』を読んだ。幅広い分野から朗読に適した文章を紹介した1冊で、オビには「大ベストセラー」とある。遥か昔の「万葉集」や「平家物語」から漢詩、川端康成などの近代作家の文章、果ては早口言葉、幼いころに口ずさんだ童謡、元気のいい物売り口上まで、言の葉の美しさやおもしろさだけでなく、著者の齋藤孝氏の心地よい解説も満喫。

私は恥ずかしながら何も暗誦できない。読み出してすぐに「平家物語」が出てきた。「祇園精舎の鐘の声。諸行無常の響きあり」くらいは知っていたが、後が続かない。よしっ!と思って、本に載っている「……伝え承るこそ、心も詞も及ばれね」までを暗記した。毎朝、シャワーの下で暗誦する。覚えてからもう数か月たつのに、口に出す前にまだ頭で考えている。「おごれる人」が先だったかな、それとも「たけきもの」だったかな、なんて。

齋藤氏も書いているが、子どもの頃に覚えたことは高齢になっても忘れない。私の「平家物語」は数か月暗誦しなかったら、もうきれいさっぱり頭の中から消えていることだろう。ほかにもいくつか美しい文章を暗記したいと思っている。どこまで覚えられるやら。そんなの覚えて何になるの?と思う人もいるかもしれないけれど、大和ことばは日本の宝だ。美しいことばはいつまでも伝えられるべきだし、それでお金は儲けられないだろうが、精神は豊かになると思う。

今の世の中は消費者が王様。買ってもらうために、どの国もどの業界も倫理を投げ捨て、理想を掻き消しながらひたすら利益を追っている。出版業界ももうずいぶん前から苦しんでいる。日本では「読みやすい」本を作って、なんとか読んでもらおうとしているようだ。気持ちはわかるけれど、それでいいのだろうかという思いは消えない。噛んで噛んで味が出る本の良さを伝えなくていいのだろうか。そんな文章を読める人を育てなくていいのだろうか。

子どもの頃から読むことは好きだったけれど、手に取ったのは推理小説やら忍者物やらばかり。学校では、英語と同じく古典の響きもすごく好きだったけれど、両方とも理解度はそれほど……。今となってはいろいろと制限もあるけれど、日本の財産に少しでも多く触れたい。

大好きな八重山吹も、もう盛りを過ぎてしまったよう

大好きな八重山吹も、もう盛りを過ぎてしまったよう