本書の正編『大事なことがはっきりするささやかな瞬間―関係づくりが苦手な世代』が出版されたのは、ほぼ一年前の2019年春だった。原書は、ドイツ人著者ミハエル・ナストがブログ形式で発表したコラムを一冊の本にまとめたものである。サーバーがパンクするほどの閲覧数を記録した文章は四つの章に分けられており、正編にはその中から二章を収めた。そして、その続編となる本書『あなたもインフルエンサー』には残りの二章が収められている。
正編では、男女関係をテーマとした話が多かった。このブログを書いていた当時、著者はまだ30代で、自身や友人・知人が謳歌していたベルリンのナイトライフや気ままな男女関係を赤裸々に綴っている。著者は、そのなかでふと抱いた疑問を読者に投げかけ、そして真剣にその答えを探そうとした。それは誰もが感じている疑問であり、それが大きな反響を呼んだのだろう。
一方、本書に収められたコラムは、仕事や社会に目を向けたものが多くなっている。そのため、男女関係についての露わな表現は正編ほど多くなく、もっと「まじめ」だ。そして、何となく今のような自分になってしまったという人や、挑戦しないまま夢を諦めてしまった人、夢想するだけで実行に移せない人などにハッパをかけている。現在の「お金第一」主義的な世の中ではそういう人がほとんどだろうし、仕方がないと妥協してしまった人が大半を占めるのではないだろうか。
だが、著者はあるとき意を決してそんな日々に別れを告げ、自分の夢を追い、叶えた。30代はまだそれが可能な年齢なのだと彼は言う。人生のレールはまだ敷かれていないのだと。社会のさまざまな現象をユーモラスに描写しながらも、彼は、自分を変え、社会を変え、もっと自分らしく生きるようにと必死に訴えているようだ。社会が求める自分ではなく、自分が求める自分でいられるように、と。
『新評論』 2020年7月, No.304より
原書:Generation Beziehungsunfähig, 2016, Edel Books, ISBN978-3-8419-0406-5
原著者:ミハエル・ナスト
大事なことがはっきりするささやかな瞬間 |
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