明るいから悲しい

春はわたしにとって少しつらい時期だ。 青さを取り戻した芝生の中に水仙の葉っぱが顔を出す頃、決まって亡くなった父のことを思い出す。胃がんを患っていた。やせ細って別人のようになった父の写 真。新しい命が吹き出し、暖かい日差しの中で何もかもがウキウキしているように見えるのに、父は今、必死でがんと闘っている。そして、死に向かっている。 私はここスイスにいて何もできない。そう思うと、涙を抑えることができなかった。

それから20年経った今でも、春になり、空気が明るくなると、父の苦しみを、あのときの悲しみを思い出す。

今年の春は…。

日に日に背が伸びる水仙の葉っぱを見るたびに、痛ましい光景がよみがえる。真っ黒な巨大な波が悪魔のマントのように東北地方に覆いかぶさる。懐かしい日本 の家屋が建ち並ぶ一帯が、ぐしゃぐしゃになって押し流されていく。そして、もうあきらめざるを得ないのか、次から次へと不気味な白い水蒸気を吹き上げる原 発。

もう見ないほうがいいと思いながらも、やっぱり気になってネットのNHKニュースを追う。新しいニュースに一喜一憂しながら過ごす毎日。いいようのない不 安の中で、不自由という言葉では足りない避難生活を送っている大勢の人。それでも淡々と、泣き叫ぶこともなく、互いに支えあって生きている。なんという国 民だ、と思う。今のわたしには少しばかりのお金を寄付することしかできない。

ドイツの民法ニュース局N-TVはずっと日本の状況を追っているけれど、とても悲観的でとても誇張した表現でテロップを流している。それを見た人はすごく ネガティブに話をしてくる。スイスの国営テレビはまだ客観的だし、ゲストの専門家も「最悪の事態を避けられるよう願う」などと締めくくったりして好感が持 てる。これだけの大災害はそれだけでセンセーショナルなのだから、視聴者の感情を煽るような表現は避けて欲しい。

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