音のない世界ってどんななんだろう。ろうの人々と知り合ってもう2~3年が経つというのに、私にはまだ想像ができない。手話の練習をしていて、両手をぴしゃりと合わせたときにふとそう思った。
私たち健聴者は、たとえば勢いをつけて右手と左手を合わせれば「パン」と音がすることを知っている。それで両手がぶつかったことを感覚的にも知る。でも、ろうの人にはそれが聞こえない。両手の触感と目で見るだけだ。
ろう者と話をしていても、彼らは口読できるので、ゆっくり、そしてはっきりと標準ドイツ語を話せば、会話にはほとんど支障がない。私が知っているろうの人 の中には、驚くほど標準ドイツ語がうまい人もいる。だから、一緒にいても彼らの聴力障害を意識することはあまりない。
ろうは見えない障害だ。手話で会話しながら歩いてでもいない限り、その人がろうであるかどうかなんて見た目には絶対にわからない。
話は変わるが、スイスのスーパーでは、レジに立つとキャッシャーのお姉さんが必ずまず「こんにちは」と声をかけてくれる。お金を支払うと「ありがとうござ いました。よい一日を」などと言ってくれる。だから、お客さんの方も「こんにちは」とか「ありがとうございました」と挨拶をする。でも、中には一言も発し ない人もいる。以前はそんな人を見かけると「なんだ、こいつ。無礼な奴だ」なんてすぐ思ってしまったが、手話を勉強し出してからは、世の中にはどんな目に 見えない障害をもっている人がいるかわからないということに気がつき、一言も発しない人に対しても別に腹を立てることはなくなった。
手話は楽しい。もっと手話で会話ができるようになりたい。でも、ほかの言語と同じで、使うことがないとあまり上達しない。知り合いのろうの人たちはみんな 忙しくて、私なんかにあまりかまってくれない。だけど、明日は久しぶりに難聴の友人と映画を見に行く約束をした。80パーセント聴力を失っている女性ドラ マーの映画、「touch the sound」だ。ずっと見たくて、でもなかなかチャンスがなかったから、彼女が誘ってくれてうれしい。口と手を使ったおしゃべりも楽しんでこようっと。
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