大事なことがはっきりするささやかな瞬間

私がスイスに移り住んだのは30年前、その当時からヨーロッパでは結婚年齢が上昇傾向にあった。当時の日本では、25歳を過ぎた未婚女性は「26日のクリスマスケーキ」など言われ、少々肩身の狭い思いをしたものだ。だが、今や日本も男女ともに結婚年齢は上がる一方だし、すでに30年前のスイスではごく普通のこととなっていた事実婚や、生涯結婚しない人の数も増えていると聞く。つまり、日本のライフスタイルがヨーロッパに近づいてきたということだろう。

本書の著者ナストは1975年生まれのドイツ人男性。日本ではバブル崩壊後の就職氷河期に社会に出た「ロスジェネ」と呼ばれる世代と同年代にあたる。彼は年の近い知人や友人から聞いた話を糸口に、ドイツ社会や自分たちの世代が抱える問題(人間関係・恋愛・結婚・キャリアをめぐる悩みやとまどい)を綴っていくのだが、その語り口はざっくばらんでユーモアたっぷりだ。しかし、うわべにとらわれた人生観やトレンドに身を任せたライフスタイルを観察する目は鋭い。

本書の観察や分析は、おそらく誰もがふと考えたことがあって、しかも口にするのがはばかられるようなものが多い。そのせいだろう、はじめウェブマガジンで公開されたときは、サーバーがパンクするほどの閲覧数を記録したという。大勢が言葉にできずにいた思いを、著者が代弁したというわけだ。

文化や歴史の違いはあるものの、同じ工業国として日本とドイツの置かれた状態には類似点が多く見られる。少子高齢化とそれにともなう結婚形態の問題もかなり共通している。本書を読んで思わずうなずき、共感を覚える方は多いはずだ。ベルリンの雰囲気をお伝えするため、原書にはない風景写真を多く掲載したので、目も楽しませつつ、ドイツを一種の鏡として日本社会の問題を考えていただけたらうれしい。

                                                                       『新評論』 2019年5, No.293より

原書:Generation Beziehungsunfähig, 2016, Edel Books,

            ISBN978-3-8419-0406-5

原著者:ミハエル・ナスト

放浪するアリ         ― 生物学的侵入をとく ―

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人類という生き物は、古来旅を好み、居を移し続けてきた。今ではどの大陸も人種のるつぼとなり、そこでさまざまな血が交じり合っている。だが、動いてきたのは人間だけではない。彼らに連れられて、あるいは彼らの意図せぬまま彼らと共に、種々の植物や動物が地域間を、そしてまた大陸間を移動してきた。あっけなく滅びた生物もいれば、ゆっくりと時間をかけて定着した……

武器を持たない戦士たち  ― 国際赤十字 ―

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赤十字、正確には赤十字国際委員会。最近、頻繁にマスコミに登場する名前である。派遣員へのインタビューやスポークスマンの談話など、テレビのニュースや新聞で見聞する機会がこの数週間の間に一段と増えた。世界中が反対する中、悲しくも再び対イラクの戦火が吹き出したのはいまからおよそ一週間前のことである。間もない開戦が予測された頃、……

美しい足をつくる

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スイスの使用説明書

Gebrauchsanweisung
スイスは、日本でも人気の高い国の一つではないだろうか。 グアムや東南アジアのように気軽に行ける場所ではないが、訳者が日本に帰ってはじめて会った人にスイスに住んでいることを話すと、「いいわねえ、スイスは憧れの国なのよ」などと言われることが少なくない。また、永世中立国であることや美しいアルプスの国であることもよく知られているようであり、スイスは日本にとって比較的身近な国といえるようだ……

お金と幸福のおかしな関係

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幸福は古今東西、 永遠のテーマである。そして、「お金で人は幸せになれるか」という問いもよく耳にする。それに対してよく聞く答えは「幸せにはなれないかもしれないが、安 心は得られる」というものだ。確かにお金はあったに越したことはない。だが、経済学者である本書の著者によると、問題はその使い方なのだ。私たちは幸せになるために一生懸命働いてお金を得る……

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