あこがれ

遅まきながら『声に出して読みたい日本語』を読んだ。幅広い分野から朗読に適した文章を紹介した1冊で、オビには「大ベストセラー」とある。遥か昔の「万葉集」や「平家物語」から漢詩、川端康成などの近代作家の文章、果ては早口言葉、幼いころに口ずさんだ童謡、元気のいい物売り口上まで、言の葉の美しさやおもしろさだけでなく、著者の齋藤孝氏の心地よい解説も満喫。

私は恥ずかしながら何も暗誦できない。読み出してすぐに「平家物語」が出てきた。「祇園精舎の鐘の声。諸行無常の響きあり」くらいは知っていたが、後が続かない。よしっ!と思って、本に載っている「……伝え承るこそ、心も詞も及ばれね」までを暗記した。毎朝、シャワーの下で暗誦する。覚えてからもう数か月たつのに、口に出す前にまだ頭で考えている。「おごれる人」が先だったかな、それとも「たけきもの」だったかな、なんて。

齋藤氏も書いているが、子どもの頃に覚えたことは高齢になっても忘れない。私の「平家物語」は数か月暗誦しなかったら、もうきれいさっぱり頭の中から消えていることだろう。ほかにもいくつか美しい文章を暗記したいと思っている。どこまで覚えられるやら。そんなの覚えて何になるの?と思う人もいるかもしれないけれど、大和ことばは日本の宝だ。美しいことばはいつまでも伝えられるべきだし、それでお金は儲けられないだろうが、精神は豊かになると思う。

今の世の中は消費者が王様。買ってもらうために、どの国もどの業界も倫理を投げ捨て、理想を掻き消しながらひたすら利益を追っている。出版業界ももうずいぶん前から苦しんでいる。日本では「読みやすい」本を作って、なんとか読んでもらおうとしているようだ。気持ちはわかるけれど、それでいいのだろうかという思いは消えない。噛んで噛んで味が出る本の良さを伝えなくていいのだろうか。そんな文章を読める人を育てなくていいのだろうか。

子どもの頃から読むことは好きだったけれど、手に取ったのは推理小説やら忍者物やらばかり。学校では、英語と同じく古典の響きもすごく好きだったけれど、両方とも理解度はそれほど……。今となってはいろいろと制限もあるけれど、日本の財産に少しでも多く触れたい。

大好きな八重山吹も、もう盛りを過ぎてしまったよう

大好きな八重山吹も、もう盛りを過ぎてしまったよう

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