月: 2015年5月

La famille Bélier

5月1日のメーデー、雨模様のチューリヒでは和やかなデモ行進が行われ、例年の「後デモ」の暴れもそれほどではなかったらしい。暴れん坊は意外にヤワなのかも。

私たちは久しぶりに映画館へ。旧市街にある比較的小さな映画館。夫の生家の近くなので、彼は懐かしそうに通りの家々を眺める。鑑賞したのはフランスのコメディ「La famille Bélier」。ろう者を取り上げた映画だとずいぶん前にちらっと読んでいたので、ずっと見てみたいと思っていた。ちょうどその前々日にテレビでフランスのコメディ映画を観て楽しかったので、夫を誘って出かけたというわけだ。

観客は私たち二人くらいかなぁと思っていたけれど、会場は半分近く埋まっていたかも。映画の方は2008年に大ヒットしたフランス映画「Bienvenue chez les Ch’tis」に比べると笑いを誘うシーンはごく少なく、最初は「失敗だったかな」と思いながら鑑賞。家族(両親と弟)の中で一人耳が聞こえるポーラは、農業を営む両親の通訳をしながら高校に通っている。ある日、歌を歌う才能を見いだされ、パリで音楽学校のオーデションを受けるまでに。両親は猛反対だったが、ポーラが合唱隊の発表会のトリでデュエットを歌ったとき、観客がひどく感動しているのを見て心が動き、オーデション会場に家族で出かける。会場で見守る家族は、ポーラが何を歌っているのかわからない。緊張がほぐれだしたポーラは、家族のために手話を交えだす。その手話がとても美しく、その歌声もちょっと物悲しいような、力強いような…。私は涙をこらえきれず、ポロポロ。「コメディを見に来たはずなのに」と思いながら。でも、泣いていた人はほかにもいたようで、どこかから鼻をかむ音が聞こえてきた。

映画館を出て「最初はつまらなかったけど、最後は良かったよね」と夫に言う。彼は「……」。翌日、「本当にあの映画良かったと思うの?」と聞かれ、「うん」。たぶん、手話を交えたあの歌がなければ、つまらなかったと思う。あのシーンのために、あの物語があるのだと思う。

家の北側の牧草地、今は一面タンポポ畑

家の北側の牧草地、今は一面タンポポ畑