私のティラミス

今日は私の美容師さんのバーバラ宅へ夕食に招かれている。10年前までお隣さん同士で、だんなさまのクルトと二人、いつまでも仲良くしてくれている。バー バラは私より10歳近く、クルトは20歳くらい年上である。夫も彼ら二人には何でも話せるし、気のおけない人たちだ。バーバラは甘いものをほとんど食べな いので、ときどき私がデザートをつくってもっていく。今日もティラミスのリクエストがあった。

スイスに来て初めて通ったドイツ語コースにギリシャ人の女性がいて、一度クラスの仲間をホームパーティに招待してくれた。そのときにティラミスがデザート に出た。私にはちょっと甘すぎたのだが、同じクラスにいたもう一人の日本人女性がそのレシピーを聞いていて、私もついでにメモしておいた。

その後少しして、クルトとバーバラ宅(といっても当時はすぐ隣だったのだけれど)へ夕食に招かれ、私がデザートを担当することになった。そこで、あのレシ ピーの登場である。スーパーへ行って必要なものを買い求めた。マスカルポーネなんて、それまで聞いたことも見たこともなかったので、チーズ売り場へ行って 「マスカルポーネを500gください」と注文。「はいはい、マスカルポーネね」と店員さん。

さて、家へ戻って初めてのティラミスづくりに挑戦。レシピーどおりにつくっているのだけれど、なにやらちょっと感じが違う。チーズが変な気がする。でも、ちゃんとマスカルポーネを買ったし…。まあ、いいや。これ、もってかなくっちゃ。

バーバラ&クルト宅でおいしい夕食をご馳走になり、いよいよデザートの時間がやってきた。ティラミスを切り分けて、クルトが味見。「ん~、なんかヘンな味 がするよ、このティラミス…」「え、やっぱり?」「悪いけど、これ食べられないよ」と申し訳なさそうに、でもきっぱりとティラミスはゴミ箱行きになってし まった。「まあ、初めてのことだからね」とご愛嬌。

なにやら納得いかないまま、次にまたティラミスに挑戦する日がやってきた。前と同じように、間違わないようにチーズの売り場へ行って「マスカルポーネくだ さい」と注文。「はいはい」と店員さん。うちへ帰って見ると、前に買ったチーズとおんなじだ。「う~ん、また変な味になりそう」と思いつつも、この「マス カルポーネ」で再度ティラミスづくり。そして一口食べて、やっぱりまたゴミ箱へ。おかしいなあ…

正しい「マスカルポーネ」に気がついたのは3度目のときである。容器に入った「マスカルポーネ」が冷蔵の商品棚にいっぱい並んでいるのを発見!「あ、これ がマスカルポーネだ。じゃあ、あれは…」とチェックすると、私がいままで買っていた「マスカルポーネ」は「ゴルゴンゾーラ・アル・マスカルポーネ」だっ た。チーズ売り場の人も意地が悪い。そんなことは一言も言わずに「マスカルポーネ」を包んでくれていたのだから。ティラミスに青カビ入りのゴルゴンゾーラ なんか使ったらおいしいはずがない。

でもそれ以来、このレシピーはひどく好評で、何かのパーティのときにもっていくと、見知らぬ人がわざわざお礼を言いに来てくれたりする。オリジナルより少し甘さを控え目に、そしてリキュールの量を多めにしているのがミソかも。

この話を思い出したのは、今日、キッチンでティラミスをつくっているときに夫が来て「チーズを入れちゃダメだよ」とぼそっと言ったためである。これは15年経ったいまでも笑いの種になっている。いいのよ、いいのよ、いくらでも笑ってちょうだい。

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