月: 2005年3月

ありがたい義理家族の存在

私たち夫婦には結婚記念日が二回ある。 私のふるさとの小さな神社で式を挙げた日とスイスの市役所で署名をした日だ。その記念日ももうすでに15回を数えた。

でも、二人ともそういうことには無頓着で、次の日になってから「あ、昨日は結婚記念日だったね」と気づくことも少なくない。15回目の記念日もほとんどそ ういう感じで、私はドイツ語のコースで夜は留守。夫が一人で留守番をしているところに義理の母から「おめでとう!」と電話がかかった。

時間は飛んで、おとといのこと。イースター連休に入り、夫の家族を呼んでうちで夕食。義理の母はいつもどおり、何やらいっぱい抱え込んでやってきた。ウサギのパンをうちと義理の妹家族に一つずつ。「初めて焼いたのよ。こっちは首が取れちゃった。つまようじで止めてあるんだ」なんてかわいい。うちにはもう一 つプレゼントがあった。「これは結婚記念日のお祝いよ。15回目って大切な記念日だからね」イースター用のチョコレートの詰め合わせだ。「下にまだ別のものが入っているからね」と注意がつく。彼女は現金をプレゼントするときにそれでデコレーションをしたりする。昔、お札がリボン代わりになっているのに気がつかず、捨ててしまいそうになったことがある。友人の赤ちゃんがたまたま見つけてくれた。冷や汗…。

本人たちより結婚記念日を大事に思ってくれる義理の母。その気持ちがとてもうれしい。普段はそれほどしょっちゅう連絡を取っているわけでもない。でも、夫 ひとりを頼ってはるばる遠い東の国からやってきた娘(過去形にすべき?)のことを気遣ってくれているのがよくわかる。つかず離れず、ちょうどいい距離感だ。口の悪い夫が私をののしると、義理の母も妹も真剣になって怒ってくれる。涙が出るほどありがたい。

イースターといえばスイセン。緑のじゅうたんによく映える

イースターといえばスイセン。緑のじゅうたんによく映える

ため息とモグリファン

語学ってむずかしい。私にはやっぱり語学の才能はないようだ(涙)。

水曜日は手話、木曜日はドイツ語のコースに通っているのだが、今週はどちらともため息混じりで帰宅。

手話の授業中、先生のみごとな手話を見ていると、「ふんふん、なるほど」と思うのだが、いざ自分でやるとなるとなんだか全然違う。今さら言うことじゃないかもしれないが、少し会話ができるようになったからだろうか、ボキャブラリーの少なさや自分の手のあいまいな動きがにくらしい。

ボキャブラリーの少なさといえばドイツ語も。受身的なボキャブラリー(読んだり聞いたりしたときにはわかる単語)はそうでもないけれど、能動的な方(自分 で書いたりしゃべったりできる単語)がまだまだ少ない。そして、増えない。努力が足りない!といわれればそれまでかもしれないが、なんだか限界が見えてきた感じだ。ため息…。

…という今日この頃だが、それでも一つ、うれしいことがあった。

昨日、ドイツ語のコースに行くのに近所のバス停で新聞を読みながらバスを待っていた。そこへ反対側のバスがやってきて、女性が一人バスから降りた。新聞を読む目の端に映る女性は、なぜか私の方へ近づいてくる。この先にはもう歩道はないのに。

「すみません、こんな風に突然話しかけたりして…」

新聞から目を上げると、同年代くらいの女性がにこやかに立っている。

「あなたとネコが一緒に散歩しているのをときどき見かけて、とってもかわいいなあっていつも思ってたんです」

あらら…。モグリファンがここにもいた。

「私もネコが大好きなんですけど、いまは飼えなくて…。あなたたちが散歩に来るのを窓から見つけると、いつも夫を呼ぶんですよ。『またみんなで散歩してるわ』って」

「じゃあ、この次、私たちを見つけたら外へ出てきてくださいよ。一緒に散歩しましょう」

他愛ない会話だが、とってもうれしかった。知らない人とこんな風におしゃべりできたことが、心をほんわかとさせてくれた。バスに乗った私はまだしばらくにやにやしていた。これもモグリのおかげよ。私たちよりずっと交際範囲が広いんだから。そのお話もまたいずれ。

春眠暁を覚えず

今日は暖かい。急に春がやってきた。

昼食に帰ってきた夫はもう我慢できず、昼食の後にバルコニーへ出て日光浴。彼は「浴」と名のつくものが大好きなのだ。私も一仕事終えてからデッキ・チェアーに寝そべり、読書。そして…居眠り。

春になると、毎年見られる(といっても自分の姿は自分では見えないが)光景である。冬の間中不足していた太陽の光を吸収しなくっちゃと、折を見てはバルコ ニーに出て翻訳の校正をしたり読書をしたり。机の前に座っている間はいいが、デッキ・チェアーに寝そべってしまうと、ぽかぽかとした陽気に包まれてだんだんと脳みそが働かなくなる。それと比例してまぶたも重力に勝てなくなってくる。はっと気がつくと、半時間や1時間が経っている。「ああ、またやっちゃった…」まあ、いいや、やれるときにぼ~っとしておこう。

手話のコースもドイツ語のコースも再び始まり、また少し忙しくなってきた。スイスには2月にスキー休暇というものがあって、どこも2週間くらい休みにな る。ドイツ語のほうは1月初旬から3月初旬まで休みだった。さあて、これからまた宿題に忙しくなる。ホームページも更新したいし、またそろ気ぜわしくなってきた。うかうか居眠りなんかしていられない…?

北風の思い出

昨日の3月1日は、30年ぶりの記録的な寒さだったのだそうだ。確かに寒い。ここ数日、北風も強かった。午後、自転車に乗って買い物に行くと、耳が千切れ そうに痛い。まるで日本の冬のようだ。スイスの冬、気温は低いが、強い風が吹くことはあまりないので、体感温度は日本の方が低いくらいである。だから、自転車に乗って冷たい風に顔をさらしていると、高校時代に冬も夏も自転車で通学していた頃を思い出した。もっと小さかった頃、吹きすさぶ北風の中、田舎の狭い道を自転車で走っていた頃を思い出した。私が自転車で買い物に行くというと、夫はあきれた顔をするが、「あの頃とおんなじ!こんな北風なんかへっちゃら だ」空が曇っていたら歩いていたかもしれないが、明るい青空だし、道路も凍っていそうにないし、自転車で大丈夫。

午後、ベッドの上で眠っていたモグリが突然顔を上げて、クンクン、クンクン。明るい日差しの中で、目を細めながら少し開いた窓の方へ鼻先を向けている。

「春が来たんだ!」

モグリは春を嗅ぎ取った。まだ雪が積もっているけれど、気温は零下が続いているけれど、春は確実に近づいている。モグリはそれを知っている。今度外へ出たら、木々の枝をよく観察してみようかな。