放浪するアリ ― 生物学的侵入をとく ―

人類という生き物は、古来旅を好み、居を移し続けてきた。今ではどの大陸も人種のるつぼとなり、そこでさまざまな血が交じり合っている。だが、動いてきたのは人間だけではない。彼らに連れられて、あるいは彼らの意図せぬまま彼らと共に、種々の植物や動物が地域間を、そしてまた大陸間を移動してきた。あっけなく滅びた生物もいれば、ゆっくりと時間をかけて定着したものもいる。

今日、世界はぐんと小さくなり、見回せば私たちの身の周りにも遠い外国の動植物がごく普通に存在している。部屋の中の水槽では熱帯魚が泳ぎ回り、ベランダにはハーブが育ち、望み次第でタランチュラまでペットAmeise_als_Trampとなる。ところが、このように多様性を簡単に楽しめることの裏側には、恐ろしい事実が姿を現わす。「種の絶滅」だ。人間の手によって移入、あるいは人間の手を借りて侵入してきた魚や鳥や動物、植物が原産の生物より勢力を増し、その土地特有の生態系を変化させてしまったり、国産種を絶滅に追いやってしまったりする現象は世界のあちこちで見られる。たとえば、アフリカ最大の熱帯湖であるヴィクトリア湖の淡水魚シクリッドは、たったバケツ一杯のナイルパーチという魚の放流がもとでほぼ絶滅に追いやられてしまったし、グアムではたった一種のヘビのために森林の鳥がすべて食い尽くされてしまった。あるいはまた、イギリスのスノードニア国立公園に目を向ければ、どこからか侵入してきたシャクナゲが猛威をふるって、原産の植物を隅へ隅へと追いやっている。

ドイツでこの分野では始めて一般読者を対象に出版された本書には、このような例が数多く綴られている。人知れず領域を侵している生物のなんと多いことか。それらは人間の手がなければよその土地に入り込むことなどなかったのだ。種の保存が声高に叫ばれている今、なぜそもそも種の絶滅が発生したのか、それに対して私たち人間がどんな役割を担ってきたのか、そして今私たちにできることは何なのかと考えてみることも必要だろう。本書にその答えが載っているわけではない。だがこの本を読み終えた後には、これまで見えなかったものが見えてくることは確実である。

『新評論』 2001年6月号より

原書:Ameise als Tramp, 1999, Amman Verlag, ISBN 3-250-20404-3

原著者:ベルンハルト・ケーゲル

書評:東京新聞(2001年8月12日)、北海道新聞、西日本新聞など、オンラインブックストアbk1

 

武器を持たない戦士たち  ― 国際赤十字 ―

Krieger_ohne_Waffen_small 赤十字、正確には赤十字国際委員会。最近、頻繁にマスコミに登場する名前である。派遣員へのインタビューやスポークスマンの談話など、テレビのニュースや新聞で見聞する機会がこの数週間の間に一段と増えた。世界中が反対する中、悲しくも再び対イラクの戦火が吹き出したのはいまからおよそ一週間前のことである…...

スイスの使用説明書

Gebrauchsanweisung スイスは、日本でも人気の高い国の一つではないだろうか。 グアムや東南アジアのように気軽に行ける場所ではないが、訳者が日本に帰ってはじめて会った人にスイスに住んでいることを話すと、「いいわねえ、スイスは憧れの国なのよ」などと言われることが少なくない。また、永世中立国であることや美しいアルプスの国であることもよく知られているようであり、スイスは…...

美しい足をつくる

gut_zu_Fuss_small 日本の読者へ。私は日本が大好きです。そして、「足」も大好きです。 以前、日本で1年暮らしたことがあります。そのとき、この国とこの国に住む人々が大好きになりました。足が大好きなのは、この器官が運動したり身体を移動させたりすることの基盤だからです。成人の3分の1は足に問題があるか、あるいは足自体が問題となってしまった状態です。絶対に何かがおかしいに違いありません。実は、おかしいのは「何か」ではなく……

お金と幸福のおかしな関係

Tretmuehl_small

幸福は古今東西、 永遠のテーマである。そして、「お金で人は幸せになれるか」という問いもよく耳にする。それに対してよく聞く答えは「幸せにはなれないかもしれないが、安 心は得られる」というものだ。確かにお金はあったに越したことはない。だが、経済学者である本書の著者によると、問題はその使い方なのだ。私たちは幸せになるために一生懸命働いてお金を得る…...

Comments are closed.